AV心理学講座 1時限目「インタビューは必要?不要?」

写真協力:ホームランゆたか/LOOKS.TOKYO

みなさん、こんにちは。エロ文筆家の鈴木亨治です。当方、ソフトオンデマンドで広報誌の編集長を務める以前、ごく普通の学生をしておりまして、当時は心理学を専攻しておりました。受験でも心理学専攻科がある大学だけを選んでおり、フロイトやユング、アドラーなんていう比較的大衆になじんだ偉人たちの知識もそれなりに蓄えております。

エロ業界には東大出身者などの高学歴も多いのですが、意外と心理学専攻は少なく、過去には『彼女をイカせる心理テクニック』(三和出版) なる本も執筆しました。はい、すいません。宣伝です。

というわけで、今回からAVを心理学的に考察していくシリーズ「AV心理学講座」を連載させていただきます。

第1回のテーマは「インタビューは必要?不要?」です。

必要論と不要論で議論が紛糾

これまでも議論の火種を次々と投下してきたひろゆき氏が、「AVのインタビューシーンって必要ないですよね。あれ見てる人は時間を無駄にしてる」と発言したことで、賛否両論が巻き起こりました。

某掲示板では「サクサク脱がんとイライラするわ」「見てる時間が惜しい」というインタビュー不要派と、「わかってない。一番必要なシーンよ」「あれがむしろメイン」というインタビュー必要派に二分されていました。

過去にAVライターのさおりさんがtwitter上で「AVのインタビューシーンはスキップするかどうか」のアンケートを行なったところ、「スキップする」と回答したのは28.8%で、意外にも少数派。

残りの項目は「推してる女優さんならインタビューシーンも見る」34.4%、「どんな作品でもインタビューシーンは重要」19.4%、「インタビューシーンが重要な作品のみ見る」17.5%と、何らかの理由があればインタビューシーンを見ると回答した人の方が多くなりました。

まあ、項目自体が「見る」が3つと多くなっていますし、そもそもAV好きなクラスターが回答している可能性は否めません。しかし、インタビューの重要性を感じている人がそれなりに多いことはわかります。

日本人は「ギャップ萌え」が好き!

一方、さおりさんのアンケート調査では、インタビューを重視する理由として「推してる子」や「インタビューが重要な作品」など、それぞれ条件付きであることも推測できます。

こうした条件付けが起きるのは、「サクッと抜きたいとき」などのシチュエーションの違いがあるかもしれませんが、男性がAVに求めているものの違いが大きいのではないかと考えています。

そもそも日本のAVの源流には「清楚に見えるのに実はエッチ」という概念が息づいています。例えば、80年代にもてはやされたAVに「美少女本番」シリーズがあります。これは一見すると清楚に見える10代の女の子が本番をしている(実際にはしていない)という作風がヒットの要因となりました。

この流れは、現代でも大きな違いはありません。単体女優のデビュー作品では清楚風に仕立て上げることが基本です。なぜなら長いAVの歴史の中で、「清楚に見せた方が売れる」というノウハウが蓄積されているからです。二作目以降はパッケージでおっぱいモロ出しなのに、デビュー作品ではたいてい服を着ているのも、日本人の清楚好きが少なからず影響しています。

こうした考え方は西洋文化にはあまり見られませんが、要するに日本人は「ギャップ萌え」がとんでもなく好きなんです。

「ギャップ萌え」はゲインロス効果とコントラスト効果

アメリカの社会心理学者エリオット・アロンソンは、「好き」と「嫌い」が生じる原因としてギャップに注目して、女子学生を対象に心理実験を行いました。結果からいうと、好感度が高い順に次のようになりました。

【1位】最初は評価が低かったのに良くなっていくパターン
【2位】評価がずっと高いパターン
【3位】評価がずっと悪いパターン
【4位】最初は評価が高かったのに悪くなっていくパターン

このように、ギャップが生じることによって評価が高くなったり、低くなったりすることがわかっています。

ただ、「清楚からエッチ」というギャップは、どちらかというと「最初は評価が高かったのに悪くなっていくパターン」のような気がしますよね。

このゲインロス効果と似たようなものに「コントラストの原理」があります。「コントラストの原理」とは、最初に認知した1つ目のものと、次に認知した2つ目に違いがあると、その差が実際よりも大きく感じてしまう心理現象です。

人の脳は、基本的に何かを「基準」にして考えようとします。例えば、ある2つの商品があり、1つは「5万円」、もう一方は「10万円のところを5万円」と書いてあると、同じ5万円でも後者の方がお得なような気がします。まあ、テレビショッピングでよくある手法です。

つまり、AVで言えば清楚というイメージと、エッチという逆のイメージの落差がよりエロスを引き立てる調味料の役割を果たしているんです。

インタビューは「判断基準」をつくる

ただ、パッと見の印象だけでは、その女性がどんなキャラクターなのかわかりません。確かにパッケージで清楚な印象に仕立てあげることはできますが、実際にどんな女性なのかの「判断基準」が足らないのです。

そこで、AVではデビュー作品などで必ずと言っていいほどインタビューを設けているというわけです。この冒頭のインタビューによって、その女性の今後のキャラクターが決まると言っても過言ではありません。もちろん元芸能人とか、すでにキャラクターが定着している場合は別ですけどね。

ご存知でしょうが、デビュー作品のインタビュー項目は、だいたい決まっています。「初エッチはいつ」「初エッチの感想」「体験人数は何人」「最近いつエッチした」「どんな体位が好き」などなど…。ぶっちゃけ聞き飽きたような質問を金太郎飴のように繰り返します。

ただ、質問は同じでも女優さんのリアクションは十人十色。堂々としている場合もあれば、恥ずかしがって答えられないような場合もあります。ありきたりな質問だからこそ、そのリアクションによって女優さんのキャラ付けがしやすいとも言えます。

キャラに引き込まれたうえ、セックスシーンでの乱れ方のギャップが自分の好みにマッチすれば、「ゲインロス効果」や「コントラストの原理」によって、より興奮の度合いが増すというわけです。

女優さんと監督のつながりを深める効果も

AVでインタビューという概念をはっきり定着させたのは、今やレジェンドとして知られる代々木忠監督です。80年代初頭に代表作となった「ドキュメント・ザ・オナニー」は、代々木監督が素人女性のオナニーをドキュメントタッチで撮影するという30分ほどの作品でした。この作品では、ほぼ全編で代々木監督がインタビューしながら女性のオナニーまで進んでいきます。

代々木監督は、単にセックスを撮影するだけでなく、出演する女性との「心の繋がり」を重視していたそうです。「ぴあ関西版WEB」のインタビューで、次のように答えています。

「最近は、人と人の繋がりがなくなってる。引きこもりの問題だとか、無縁社会だとかね。そういう風に日本全体に繋がり感がない。僕は、そういう“心の繋がり”を映像として発信していくべきだと思うんです。僕が大切だと思うことは、昔の日本でいうところの“まぐわい”なんです。目を見つめ合ってセックスしてほしい。目を見つめあえば相手のことを大切に思うし、いいことばっかりなんですよ。最小の社会体である家庭や夫婦がしっかりして、信頼関係が築かれていれば離婚率も下がるだろうし、ふたりの愛情も深まるということは、僕が現場で実感してますから。食と性は種の存続に欠かすことのできない営みなんですよ。」
(ぴあ関西版 : WEB http://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2011-03/yoyochu.html

時として、監督と女優さんの繋がりは男優以上に大切になることがあります。女優さんは監督の指示によって、さまざまなプレイをするわけですから、信頼関係が成り立っていないと、うまく撮影が進まない場合もあるからです。

例えば、ハードSM系作品で知られるメーカー「ドグマ」の代表TOHJIRO監督は、撮影前に行われる女優さんとの会話を重視しているそうです。あくまで関係者から聞いた話ですが、かつて撮影前に女優さんと二人きりで6時間以上も話していたこともあるそうです。SM作品では時にハードなプレイをすることもあり、それだけお互いの関係性を重視しているのでしょう。まあ、6時間もインタビューシーンがあったら、さすがにキツイですが…。

このように、インタビューにはユーザー、スタッフにとってもさまざまな効果があるんです。インタビューシーンを好む人は、作品に出演している女性に気持ちを投影したいという願望があるとも考えられます。逆にスキップしてしまう人は、その女優さんのキャラクターを知っているか、あるいは簡単にヌキたいのかのどちらかなのかもしれません。いずれにしても、インタビューはAVにとって欠かせないものだと言えるでしょう。